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あかずきんと甘い唇の狼

『雇われフィアンセの蜜命~子爵の甘い誘惑~』(ガブリエラ文庫)の後日談です。


 その日の日記を書き終えたロウィーナは、抽斗の奥から一枚の写真をそっと取り出した。
 写っているのは『あかずきん』の扮装をした幼い頃のアーサーたちだ。
 女の子とと見紛う愛くるしい顔立ちのアーサー。気難しげな顔をした猟師役のトーマス。そして、狼の役を申しつけられたとおぼしき白い尨毛(むくげ)の小型犬。
 この写真を見るたびに、心がなごんで笑みが浮かぶ。
 ギルバートに奪われた思い出の写真は、この一枚を除いてすべてアーサーの手元に戻っている。エメライナは約束どおり写真を取り返してくれた。
 アナベルたちの誘拐騒動で、ロウィーナはギルバートから直接受け取ったこの写真のことをすっかり失念していた。後日、バッグのなかに写真が入っているのを発見してすぐに返そうとしたのだが……、つい、魔が差してしまったのだ。
(……一枚くらい、わたしがもらってもいいわよね)
 迷っているうちに他の写真が戻ってきて、しかもアーサーが見せてくれたのが普通に写ってる写真だけだったので、ロウィーナはそんなふうに自分に言い訳した。どういうわけか、どんなにせがんでもアーサーはお芝居の扮装をした写真を見せてくれなかったのだ。
(たぶん、照れてるんだろうけど)
 子供部屋(ナーサリールーム)のお芝居とはいえ、女の子の扮装をしている写真を人に見られたくはないのだろう。その気持ちもわかる。しかし、もうすぐ結婚する自分になら見せてくれたっていいのでは?
「別に、からかうつもりなんかないのに」
 それとも、似合っていると褒められるのも嫌なのだろうか。
 ロウィーナは写真を眺め、ふぅと溜息をついた。
「……ほんと可愛い。こういう女の子が欲しいな」
 男の子でもいいけど。
 そんなことを考えて顔を赤らめていると、ふいに耳元で甘く囁かれた。
「まさかきみが隠してたとはね」
「……っ!?」
 ぎょっとして振り向くと、蠱惑的な光を湛えた淡いブルーの瞳が間近から覗き込んでいた。
「ア、アーサー……」
 顔を引き攣らせるロウィーナに、彼はにっこりと笑った。
「これだけ見当たらないなぁって不思議に思ってたんだ。そうか、きみが隠し持っていたんだな」
「べ、別に隠してたわけじゃ……。うっかり返しそびれただけよ」
「うっかり、ねぇ」
 くす、とアーサーが含み笑う。わかっているぞと言いたげに。ロウィーナは慌てて写真を突き出した。
「ごめんなさい! 返します!」
「いいよ、これはきみにあげる。気に入ってくれたんだろう?」
 ますます笑みを深め、アーサーは囁いた。耳に温かな吐息がかかり、ぞくっとしてロウィーナは肩をすくめた。
「か、可愛いな、って……」
「可愛いのはきみさ、プリンセス。せっかくだから、ふたりでお芝居しようか」
「……!?」
 アーサーはクローゼットを開け、なかから深紅の天鵞絨(ビロード)でできたフード付きマントを取り出した。上等な生地をたっぷり使ったマントを広げられ、ロウィーナは唖然とした。
(こ、こんなのあったっけ……!?)
 にっこり笑ってアーサーが促す。
「さ、着てみて」
 呆気に取られたまま、ロウィーナはマントを羽織った。襟元のリボンを結び、毛皮の縁取りのついたフードをふんわりかぶせてアーサーは微笑んだ。
「うん、似合う。すごく可愛い」
 褒められてロウィーナは口許を引き攣らせた。
(もしかして、気付かれてた!? わたしが写真を隠してること……っ)
 でなければ、わざわざこんなマントをひそかに誂えたりしないはず。おそるおそるアーサーを窺っても、彼は澄ました笑みを浮かべるだけだ。
(怒ってはいない……みたいだけど)
 ホッとしつつ、何となくいやぁな予感もしたりする。
「さて、可愛いあかずきん。おばあさんのお見舞いに行っといで」
「だ、誰がおばあさんなの?」
「誰でもいいさ。ミセス・ウェルズかキティか。何ならモリスンでも。はい、これ持って」
 手渡された籠にはキドニー・パイとワインが入っていた。
「あ、あの、でももう遅いし……。こんなことしてたら呆れられるわ」
「四の五の言わずに早く行かないと、きみを食べちゃうよ?」
「あ、あなたは猟師でしょ!?」
 口端を吊り上げるようにアーサーは笑った。
「まさか。僕は狼さ。今すぐあかずきんが食べたくてたまらない、わるーい狼」
 彼は掴みかかるように両手を上げてみせる。ロウィーナはひくっと口許を引き攣らせ、廊下に続く扉を急いで開けた。
(――――えっ……!?)
 ロウィーナは息を呑んだ。目の前に、森が広がっていた。小鳥のさえずりが聞こえ、見上げると緑の梢越しにやわらかな陽射しが降り注いでいた。
「な、何これ……っ」
「ほら、早く逃げないと食べちゃうぞ」
 背後から耳元で囁かれ、ロウィーナは飛び上がった。わけがわからないまま走り出す。
(何なの、これ!? どうなってるのよーっ)
「――っていうか、あかずきんって逃げる話だった……!?」
 息を切らしながら自問すると、すぐ後ろで足音がした。四つ足の獣が跳躍する音。ハッハッ、と獰猛な息づかいさえ聞こえる気がする。
 ロウィーナは青ざめ、必死になって走った。
 耳元で甘い吐息を感じた。鋭い牙が耳殻をかすめ、忍び笑う声がする。熱い舌が頬を舐める――。
「やだぁっ……!」
 ロウィーナは半泣きになって森を走った。
 やがて木立の向こうに小さな一軒家が見えてきた。
(おばあさんの家!)
 飛び込んでバタンと扉を閉め、ロウィーナは喘いだ。薄暗い小屋にはベッドがひとつ置かれていて、誰かがそこで寝ているようだった。
 ロウィーナはキドニー・パイとワインの入った籠をテーブルに置き、ベッドに歩み寄った。
「――おばあさん、ごきげんいかが?」
 誰がおばあさんなのだろうと思いつつ、律儀にロウィーナは尋ねた。横になっていた人物が、頭までかぶっていた毛布をパッとはねのけた。
「待ってたよ、あかずきん」
「アーサーっ!?」
 にっこり笑っていたのは狼役のはずのアーサーで、彼の裸の胸を見てロウィーナは赤面した。
「さぁ、おいで」
 赤い舌で唇を舐めると、尖った牙がちらりと覗く。
「――いやぁあぁあっ!!」
 ロウィーナは小屋を飛び出した。さっきまで昼間だったはずの森はいきなり夜になっていた。月明かりに浮かび上がる影の森を、ロウィーナは無我夢中で走った。
 どんなに走ってもすぐ後ろで笑う声がする。フードが脱げて剥き出しになった耳に、熱い吐息がかかる。まるで抱きしめられているみたいに近い。
 自分が怖がっているのか興奮しているのか、すっかりわからなくなってしまった。逃げているようで、追いかけているような気もする。
 ほら、アーサーの背中が見える。ちらりと振り向いて、思わせぶりに笑う。捕まえてごらん、と誘うように。
 弾んだかかとを牙がかすめる。もはや気にせずロウィーナは走った。
「――待って! 待ってよ、アーサー」
 でも彼は笑っていってしまう。ロウィーナは息を切らし、必死に彼を追った。
「待って、置いていかないで……!」
 涼しい笑い声がする。彼の姿が遠ざかってゆく。ロウィーナは全身全霊を込めて叫んだ。
「アーサー……っ!!」
 ざわ。
 憫笑するように梢が鳴る。
 ロウィーナはほうけたように空虚な森のなかに立ち尽くした。
「……アーサー……?」
 応える声はない。森はしんと静まり返って、静寂が耳に痛いほど。ロウィーナは震える唇を噛みしめ、両手で顔を覆った。
 わたしを置いて、彼は行ってしまった。
 わたしを連れては行けないどこかへ。
 そこはわたしが行けるような場所ではないから……。
 切り裂かれるように痛む心を抱えて立ち尽くしていると、いきなり耳元で笑い声がした。振り向く暇もなく背後からぎゅっと抱きしめられる。
「捕まえた」
「――アーサー!? ……っ」
 にっ、と笑った彼に、いきなり唇を封じられた。ロウィーナは彼にしがみつき、さらりとした髪をまさぐりながらくちづけに応えた。
「はふ……」
 とろけた吐息を洩らすロウィーナの唇をなおもついばみながら、アーサーは囁いた。
「探したよ、あかずきん。逃げるなんて悪い子だ」
「だって、逃げないと食べられちゃうって……」
 息を切らせるロウィーナに、アーサーは甘く笑った。
「ついに捕まってしまったね。きみを美味しくいただくことにしよう。まずは耳から」
「ひゃぅっ」
 敏感な耳殻を齧られ、ロウィーナは身を縮めた。痛む寸前の強さでこりこり噛まれると、ぞくぞくっと身体に甘い震えが走る。
「や、んんっ」
「きみの耳は美味しいな。歯ごたえが何とも言えない」
 耳朶を口に含みながらアーサーが囁く。ロウィーナは潤む瞳を力なく瞬いた。すがりつくように彼を愛撫していた指先に、妙なものが触れる。目を上げると、さらさらした美しい彼の金髪の間に、尖った耳が見えた。金色の和毛に覆われた、三角形の獣の耳――。
「ア、アーサー!? 耳っ、あなた耳が生えてるわっ」
「そりゃ、耳くらいあるさ」
 ロウィーナは焦って獣の耳を引っぱった。アーサーが顔をしかめる。
「本気で引っぱらないでくれよ、痛いじゃないか」
「ほ、本物……!?」
 青ざめるロウィーナに、アーサーはにんまりと笑った。
「僕は狼だよ? 可愛いあかずきん」
「……ひ……、ぁんっ」
 ふたたび唇を塞がれてロウィーナは悶えた。熱い舌が滑り込み、茫然とするロウィーナをたちまち籠絡した。
「ふ……、んっ……」
 唾液を絡ませながらちゅぷちゅぷと舌が鳴らし、アーサーはロウィーナの口腔を舐め回した。力が抜けてよろけ、背中が大木の幹にぶつかる。
 快感と息苦しさにぼうっとなりながら、ロウィーナはアーサーの身体をまさぐった。いつしか驚愕も忘れ、やわらかな彼の耳を撫でると、奇妙な興奮を覚えた。
 ようやく唇を離したアーサーが、マントの合わせをそっと開く。胸の中心に刺激が走り、ロウィーナはびくりと身をすくめた。
 どういうわけか、ロウィーナはマントの下に何も着ていなかった。
「えっ……、な、なんで!?」
 焦ってもすでに上気して揺れる乳房も下腹部の淡い翳りも剥き出しにされてしまった。アーサーは身を屈め、薔薇色の棘を口に含んだ。
「あっ」
 強く吸われ、ロウィーナは身を捩った。固くなった先端を歯がかすめる。アーサーは身を起こし、ロウィーナのうなじに唇を這わせながら両方の乳房を揉みしだいた。
 円を描くように捏ね回されると腰の辺りにぴりぴりするような快感が沸き起こる。ロウィーナはうっとりと吐息を洩らし、顎を反らした。
「アーサー……」
 甘えるように囁くと、彼は片手を下へ伸ばし、ロウィーナの腰をさすった。そのまま後ろへ回って臀部の丸みをたどり、確かめるように撫で回す。
 後ろから秘処を探られ、ロウィーナは喘いだ。すでに溜まっていた熱い蜜が、指の刺激であふれ出す。
「こんなに濡らして……、あかずきんは悪い子だな」
 耳元で囁かれ、ロウィーナは震えた。
「ぁ、ん……、っあ」
 くちゅりと鳴った指が、秘裂に沿ってゆっくりと前後している。ロウィーナはアーサーの背に腕を回し、肩口に額を押し当ててねだるように腰を揺らした。
「あ……、ふ。はぁ、ん……」
 吸われて赤みを増した唇から、淫らな喘ぎ声が絶え間なく洩れる。二本に増えた指が花芽を挟み、強くしごき上げた。
 ロウィーナはきつく眉根を寄せ、唇を噛んだ。
「んん……っ、あ。あ……、ぁんっ――!」
 柔肉がびくびくと震え、乱れた吐息をつく。アーサーは濡れた指でロウィーナの腿を撫で、片足を上げさせた。
 ゆるやかに痙攣し続ける蜜口に、猛り立つ固い楔が押し当てられた。ロウィーナの腰を抱え直し、アーサーは愛蜜のるつぼに己を挿入した。
「……どう?」
 腰を前後させながら、官能的な声音でアーサーが問う。ロウィーナは快楽に曇った瞳でぼんやりと頷いた。
「いい、わ……。きもちいい……」
 ぐちゅっ、と奥処を突かれ、ロウィーナはのけぞった。アーサーはロウィーナの腰を持ち上げ、さらに深く挿入した。
 地面から完全に足が離れてしまう。木の幹に背を押しつけ、ロウィーナはアーサーの腰を脚で挟んだ。
「あっ、あ、あ。ん……、や、そん、な、奥っ……だめぇっ」
「気持ちいいんだろう?」
 ぐちゅぐちゅと蜜壺を穿ちながらアーサーが笑う。ロウィーナは彼にしがみつき、頼りない泣き声を上げた。
「やぁ、っ。だ、め……っ、こわ、れ、ちゃぅっ……!」
「うん。もっと壊れて、あかずきん。もっとめちゃくちゃに乱れてみて」
 ピンクに染まった耳殻を甘噛みしながらアーサーが囁く。ぶるりと震え、ロウィーナは弱々しく喘いだ。
 アーサーは下から抉るように蜜まみれの媚肉を突き上げた。彼の腰に巻き付けた脚に力を入れるほど、蜜道を行き来する彼のかたちをはっきりと意識してしまう。
 充実した固い楔が柔襞をこすり、子宮口を激しく突く。ロウィーナは涙を流して喘いだ。
「は……、ぁ……っ、あ、あ、あぁあっ」
 きもちいい。
 壊れてしまいそうなほどきもちいい。
 それとももう壊れてしまってる? こんなに激しくされて、気持ちよくてたまらないなんて。
 揺れる乳房をほおばり、尖った乳首を舐め吸われた。
「美味しいな……、きみの身体はどこもかしこも美味しい」
 唸るように囁くアーサーの額にキスして、ロウィーナは和毛に包まれた彼の耳をうっとりと撫でた。
「全部食べて、わたしの狼さん……」
 熱に浮かされたようにロウィーナは囁いた。アーサーは欲情に濡れた瞳でロウィーナを見つめ、さらに激しく動き出した。
「はぁっ、あ、あ、あんっ」
 ぐりぐりと奥処を突かれ、蜜壺を掻き回されて、ロウィーナと乱れきった嬌声を上げた。快楽の涙がこぼれてアーサーの肩に落ちる。
 ロウィーナはぎゅっと目をつぶり、唇を震わせた。
 内奥が熱い。どんどん熱くなる。彼の欲望に突かれるたび、熱が高まってコントロールできなくなる。自分が自分でなくなってゆく。
 文字どおり、彼にむさぼられている気がした。それが心地よくてたまらず、酩酊したようにロウィーナは幸福感に酔った。
 アーサーが低く唸り、乱れた息を洩らした。彼はロウィーナを抱え直すと、自身を激しく打ちつけ始めた。衝撃でロウィーナの視界に火花が散る。
「あ、んん、あぁっ……、あ――……!」
 陶酔に攫われて放心しながら、ロウィーナは熱い飛沫に内奥を満たされる悦びに浸った。



「…………っ」
 うっすらと目を開け、ロウィーナはぼんやりと視線をさまよわせた。
 森ではなく、温かなベッドのなかだった。
 身じろぐと秘処が甘く疼き、次の瞬間、ロウィーナはハッと我に返って飛び起きた。
 まだカーテンが引かれたままの、薄暗い室内。
 身にまとっているものは、深紅の天鵞絨(ビロード)のマントなどではなく、昨夜眠りに就いたときと同じ寝間着――。
(ゆ……、ゆめ……!?)
 ロウィーナはかーっと赤くなり、ベッドに突っ伏した。
「うそ……」
 なんて淫らな夢。アーサーとあかずきんごっこをして、彼に美味しく『食べられて』しまうなんて……。
「なんで……っ」
 ロウィーナは突っ伏したまま呻いた。夢とはいえあまりに恥ずかしくて、起き上がる気力もわかない。
 やがて起こしに来たキティが驚いて騒ぎだし、やむなく仮病を使ったロウィーナは、アーサーにいらぬ懸念を抱かせるはめになったのだった。

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iSaya

Author:iSaya
鷹守諫也でライト文芸、上主沙夜で乙女系ノベルを書いてます。

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