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十六夜亭 小説家・鷹守諫也のブログです。

狼姫と不埒な猟師

『雇われフィアンセの蜜命~子爵の甘い誘惑~』(ガブリエラ文庫)の番外編その2。



「――本当に大丈夫?」
 心配そうな顔でアーサーに見つめられ、ロウィーナはためらいがちに微笑んだ。
「大丈夫よ。今朝だって、少し休んだらよくなったもの……。寝不足のせいだと思うわ」
 我ながら言い訳がましくて、ロウィーナは赤らむ頬を隠すようにうつむいた。
 淫らな夢を見て疲労困憊したなどとは口が裂けても言えない。
 今朝はお腹が痛いと嘘をついて朝食を取らなかった。アーサーと顔を合わせるのが気まずかった。
 ところが、執事からそれを聞いたアーサーは、わざわざ部屋まで様子を見に来た。赤い顔で口ごもるロウィーナを見て病気ではないかと心配し、額に手を当てて熱があると騒ぎだした。
 医者を呼べと彼が執事に命じるのを聞いてロウィーナは慌てた。
 ちょっとだるいだけだからと何度も言って何とかとりやめてもらったものの、すっかり病人扱いされてしまった。
 情けないやら申し訳ないやらで、本当にもうどうしていいかわからず、ロウィーナは泣きたい気分でベッドのなかで縮こまっていた。
 本当は何でもないのに寝てもいられず、昼前には起き出して着替えた。
 客間に顔を出すと、体調不良と信じ込んでいるアーサーにゆっくり休んでいるようにと言われて仕方なく二階で本を読んだりしてすごした。
 夕食には滋養がつくようにと特別メニューを出され、申し訳なさに拍車がかかった。嘘なんかつくんじゃなかったと後悔しても後の祭である。
 さらにはお湯割りのブランデーにひまし油を入れたものを飲まされ、大事をとって早くお休みくださいとミセス・ウェルズによって強制的に床に就かされてしまった。
 そして、寝る前に様子を見に来たアーサーが、まだ起きていたロウィーナの額に手を当てて本日何度目かわからない『大丈夫?』を繰り返したのだった。
 嘘をついて心配させている後ろめたさを感じつつ、ちょっとアーサーは過保護すぎるのではないかと思ってしまう。
(ずいぶん心配性だったのね)
 彼はベッドの端に座り、眉根を寄せてロウィーナを見た。
「ねぇ、ロウィーナ。僕に隠してること、ない?」
「えっ……」
 ドキッとして声が裏返りそうになってしまう。
(な、何かしら……。やっぱり、あの写真……?)
 ロウィーナは決意して顔を上げた。
「実は――」
 アーサーの表情が真剣そのものに変わる。
(――だめ。口で言うより見せたほうが早いわ)
 ロウィーナはこくりと唾を呑み、急いでベッドから出た。
 机の抽斗(ひきだし)を開け、写真を取り出してベッドに戻る。怪訝そうなアーサーに、ロウィーナは意を決して写真を差し出した。
「ごめんなさい!」
 面食らった顔で写真を受け取り、アーサーは苦笑した。
「……ああ、これ。きみが持ってたのか」
「ギルバートから返してもらったのに、渡しそびれていたの。ごめんなさい、お返しします」
「持っててくれてもかまわないよ。気に入ったのならきみにあげる」
「でも、大事な写真でしょう?」
「まぁ、ね。幼すぎて実際の記憶はほとんど残ってないから」
「だったらやっぱり返します。他の写真と一緒にしておいたほうがいいわ」
 アーサーは頷き、写真をガウンのポケットに入れた。彼はロウィーナを見つめ、軽く嘆息した。
「で、これがきみの隠し事?」
「え。ええ……」
 淫夢のきっかけはこの写真なのだから、そう言えないこともない、はず……。アーサーはホッとしたような、それでいてどこか残念そうな顔で微笑んだ。
「どうやら僕の考えすぎだったみたいだな」
「考えすぎ?」
「妊娠したのかと思った」
「……!」
 それであんなに心配したのか。ロウィーナは顔を赤らめながら、この前の月経はいつだったかしらと考えた。そういえば、そろそろ一月になる。単に遅れているだけなのか、それとも……?
 アーサーはくすりと笑って囁いた。
「もしそうだとしても、あと三週間で結婚式だから問題はないけどね」
 結婚前から関係を持ってしまったのが、そもそも問題ありのような気もするが……。そんなこと、今さら言っても始まらない。すぐに子どもができれば彼も安心だろう。跡取りとなる男の子ならなお良いけれど、それは天の采配だ。
 アーサーにもたれかかり、ロウィーナは呟いた。
「……あなたに似てるといいわ」
 ロウィーナの肩を抱き、アーサーは笑った。
「僕は、きみに似てるほうがいいな」
「男の子だって可愛いわ。きっと、その写真みたいに」
「まさか、きみも写真を撮る気じゃないだろうね? 僕の母みたいに、息子に女装させて」
「いい思い出になるじゃない?」
「悪夢だよ」
 顔をしかめるアーサーに、ロウィーナは笑った。
「大袈裟ね。照れくさいのもわかるけど。――ね、他の写真も見せて」
「だめ」
 にべもなく言われ、ロウィーナは口を尖らせた。
「いいじゃない。もう『あかずきん』は見ちゃったのよ?」
「きみの興味を惹きつけておくには秘密が必要なんだ」
「もうっ……。じゃあ、他にはどんなお芝居をしたのか教えて。あかずきんを演(や)ったのたら、他の童話もあるはずね。ヘンゼルとグレーテル、白雪姫、眠れる森の美女……」
「『三匹のこぶた』は演ったよ。僕とトーマスと、もうひとり別の子も加えて。トビーがまた悪い狼役」
「トビー?」
「『あかずきん』の写真に写ってただろう?」
「ああ、あのむく犬ね。他には?」
「内緒。結婚したら見せてあげる。一夜に一枚ずつ、ね」
 急にアーサーは目つきを変え、誘惑するようなまなざしでロウィーナを見つめた。
「ねぇ、ロウィーナ。今朝、本当にお腹が痛かったの?」
「えっ……」
 狼狽する様子を見て、アーサーはくすっと笑った。
「やっぱり嘘か」
「ご、ごめんなさい。その……、すぐに起きたくなくて、つい言い訳してしまったの」
「きみ、寝起きはいいんじゃなかった?」
「たまには調子が悪いときだってあるわよ……」
 顔を赤くして言い返すと、アーサーはますます笑みを深めた。その笑顔が、まるで悪巧みしてる狼みたいに見えてしまう。
「だったら正直にそう言えばいい。誰も文句は言わないのに、どうしてわざわざ嘘をつくのかな」
 顔を引き攣らせるロウィーナをじっくりと見つめ、アーサーは目を細めた。
「……きみが嘘つくのは、大抵やましいことがあるときだ。特に、僕に隠し事してるとき。いったい何を隠してるんだい?」
「だ、だから写真っ……」
「もう何日も隠してたのに? 今さら仮病を使うなんて変じゃないか」
「返さなきゃ、ってすごくやましくなったのよ! ――っきゃ!?」
 いきなりベッドに押し倒され、ロウィーナは慌てた。アーサーがまっすぐに瞳を覗き込んでくる。彼が自分の唇を舌先でちろりと舐めるのを目にして、夢で見た狼のアーサーを思い出してしまい、ロウィーナは顔を赤らめた。
「言ってごらん。何を隠してるのか」
「別に何もっ」
「ふぅん。そんなに耳を齧られたい?」
「ひぁっ」
 耳全体をべろりと舐められ、ロウィーナは悲鳴を上げた。
「や、やだ、やめてっ」
「本当に耳弱いなぁ。っていうか、ますます弱くなった?」
「誰のせいっ……」
 身を縮めて精一杯言い返すと、アーサーはにっこりした。
「もちろん、僕」
「やんっ、あ、あん! だ、だめっ……」
 必死に身をよじったが、アーサーの舌は執拗に絡みついてくる。耳朶を食(は)まれ、耳殻の溝に沿って舌を滑らせては、軟骨に軽く歯を当てられる。
 くすぐったさと、ぞくぞくする心地よさでロウィーナは喘いだ。
「やぁっ!」
「素直に白状したら?」
「ゆ、夢を見ただけよっ」
「夢? どんな」
 ロウィーナは真っ赤になって口ごもった。
「どんなって、だからその、夢よっ。支離滅裂な、わけのわからない夢」
「怪しいな。夢を見たくらいで仮病使うなんて、よっぽど後ろめたかったんだね。――こら、正直に言え」
 アーサーはふざけた口調で脅し、ロウィーナの身体をくすぐるように撫で回した。
「ひやんっ、や、やめてアーサー、くすぐったっ……!」
 必死にもがけばもがくほど彼の腕に絡めとられ、敏感な場所を攻めたてられる。息も絶え絶えになってロウィーナは叫んだ。
「あ、あかずきんになって、狼に追いかけられる夢を見たのよ……っ」
「あかずきん?」
「寝る前にあの写真を見たからっ……。そっ、そのせいよっ」
「『あかずきん』って、狼が待ち伏せする話じゃなかった?」
「ま、待ち伏せもされたわ! おばあさんの振りしたあなたが――」
「僕? ――ああ、僕が狼だったのか。はは、ぴったりだ! それで、僕はきみを食べちゃったというわけだね」
 笑いだしたアーサーを、ロウィーナは涙目で睨んだ。
「い、意地悪なんだからっ。夢のなかでも意地悪だったわ。わたしを追いかけてきたくせに、いつのまにかわたしがあなたを追いかけていて……、わたしを置いて消えてしまったのよ」
「まさか。僕がきみを置いていくわけないじゃないか」
 そうだろう? と甘く瞳を覗き込まれ、ロウィーナは目を泳がせた。
「……それは……、戻ってきた、けど……」
「で、戻ってきた僕に『美味しく食べられちゃった』というわけだね」
 アーサーはにんまりしてロウィーナの顎を摘んだ。淫らな夢を見たと悟られてしまった。恥ずかしくて溜まらず、ロウィーナはシーツに顔を伏せた。
 アーサーは寝間着が乱れて剥き出しになったロウィーナの肩に、ちゅっとくちづけた。
「仮病まで使ったからには、相当気持ちよかったんだろうね?」
「……っ」
 ますます身を縮めるロウィーナを抱き寄せ、アーサーはくすくす笑った。
「本当にきみは可愛いな。夢に見るほど気に入ってもらえて嬉しいよ」
 何と言っていいかわからず、ロウィーナは火照る顔を彼の胸に埋めた。優しく背中を撫でながら、アーサーが囁く。
「せっかくだから、夢の続きをしようか」
 ぎょっとして顔を上げると、彼はふと思いついた様子で笑った。
「そうだ、どうせなら役割を交替しよう。今度はきみが狼だ」
「えぇっ!? あなたがあかずきん役!?」
「それはもう昔やったから、今度は猟師がいいな。僕の鉄砲できみを撃って、石の代わりに可愛い子狼をたくさんお腹に詰め込んであげる」
 ロウィーナは赤面して口をぱくぱくさせた。ものすごくいやらしいことを言われた気がする。アーサーは悪びれもせず、平然とロウィーナの寝間着を脱がせた。やわらかなお腹に舌を這わされ、ロウィーナは震えた。
「……きみは眠れる狼姫だ」
「な、何か別の話が混じってません……!?」
「夢は支離滅裂なものさ」
「今は起きて……っ、!」
 舌先で花芯を突つかれ、ロウィーナは息を詰めた。震える肉芽を下から上へ何度もなぶられ、いやでも性感が昂ってゆく。
 ロウィーナは拳を口許に当てて喘いだ。
「……っ! ぁ……、ふっ……」
 慎ましい花弁が開き、媚肉の奥から滴る蜜でとろりと甘く潤い始めた。アーサーが舌を鳴らすたびに蜜があふれてきて、ぴちゃぴちゃと淫靡な水音が響いた。
 陰唇に沿って丁寧に舐められ、蜜口に舌を差し入れて浅い場所を探られると、身体がふわりと浮き上がるような快感に襲われる。ロウィーナは力なく首を振り、あえかな吐息を洩らした。
「あ……」
 軽く達してのけぞると、アーサーは顔を上げて座り直した。濡れそぼった蜜壺に指をくぐらせ、抽送しながら親指で花芽をぐりぐりと刺激する。ロウィーナはかぼそい声で喘いだ。
「ぁ、ん……。ん……、はぁっ、あ……」
「目が覚めたかい? 綺麗な狼姫」
 焦らすような笑みを含んだ声でアーサーが囁く。反射的に頷くとアーサーは薄く笑い、身をかがめてロウィーナの唇をぺろりと舐めた。
「反撃してごらんよ。きみは狼だろう?」
 ロウィーナは肘をついて身を起こし、秘部をいじり続けるアーサーに弱々しく掴みかかった。唇を押しつけ、彼の舌を追いかける。無意識に腰を揺らしながら、ロウィーナはようやく捕まえたアーサーの舌を夢中で舐め吸った。
「ん、ん……」
 じゅぷじゅぷと秘処が掻き回される快感に、ロウィーナは我を忘れた。下腹部が甘く疼き、ふたたび陶酔に襲われる。
「ふ、ぁ……っ……!」
 きつく目を閉じ、ロウィーナは恍惚に浸った。
「ん……」
 力なく吐息を洩らすと、唇を重ねてアーサーが囁いた。
「これくらいじゃ足りないよね。僕の可愛い雌狼」
 熱を残して指が抜かれ、走った刺激にロウィーナは肩をすくめて震えた。
「後ろを向いて」
 言われるままに四つん這いになって後ろを向く。真っ白なお尻を撫で、アーサーは命じた。
「お尻を突き出すんだ」
 恥ずかしい恰好を取らされ、ロウィーナは顔を赤らめながらおずおずと尻を突き出した。
「だめだ、もっと高く上げて」
 仕方なく胸を伏せ、お尻だけを空中に突き出すように高く持ち上げた。羞恥の涙がこぼれそうになり、ロウィーナはシーツに頬を押しつけた。
 伸びをする犬のような恰好のロウィーナを眺め、アーサーは満足そうに微笑んだ。
「いいよ、すごく色っぽい」
 彼はお尻から背中に掌を滑らせながら囁いた。
「きみは発情中の雌狼だ。お尻を振って僕を誘惑してごらん」
 恥ずかしさに涙ぐみながら、ロウィーナはぎこちなくお尻を振った。尻の丸みにキスしながらアーサーが含み笑った。
「しっぽが揺れてるよ。可愛いな」
 もちろん冗談だとわかっているが、本当に自分にふさふさしたしっぽが生えていて、それがお尻を振るたびに媚びるように揺れているかのごとく感じてしまう。羞恥心と興奮で、内側から身体が熱くなる。
 涙ぐんで唇を噛むロウィーナを愛しげに見つめながら、アーサーは両手を背中に這わせた。
「こんなに綺麗な雌狼は見たことない。艶々したオレンジ色の毛並み。和毛で覆われた可愛い耳……」
 彼は背後からのしかかり、そっとロウィーナの耳を食んだ。彼の昂りがお尻の割れ目に押しつけられ、ぞくぞくしてロウィーナは喘いだ。否が応にも期待が高まってしまう。
 夢のなかで立ったまま犯されながら彼の耳を撫でたことを思い出し、ロウィーナはこくりと喉を鳴らした。
 天鵞絨のような手触りの、やわらかな獣の耳……。偶然にも同じことを口にされたせいで、あのときの興奮や快感までよみがえってくる。
 アーサーは両手でロウィーナの腰を撫で、前に回って内腿を愛撫した。ぞくっと刺激が走り、ロウィーナは眉根を寄せた。
「ぁ……っ」
 反応に気をよくしたようで、アーサーは何度も腿を撫で上げた。そっと掌を滑らせて、膝の上から脚の付け根までを繰り返し愛撫される。媚肉が震え、とろりと蜜があふれた。
 ロウィーナはもじもじと腰を揺らした。わかっているくせに、アーサーはなかなか挿入しようとしない。きわどい場所を指がかすめるたびに焦らされて、ロウィーナは唾液で濡れた唇を噛んだ。
「……アーサー……っ」
「何だい?」
 振り向いてかぼそい声でねだると、彼は空とぼけて微笑んだ。我慢できず、ロウィーナは恥じらいをこらえてせがんだ。
「来て、早く……」
「僕が欲しい?」
「お願い……」
 アーサーは目を細め、ロウィーナの腰を掴んだ。猛った楔が蜜口に触れたと思ったとたん、一気に奥まで打ち込まれる。
 あふれるほど蓄えられていた蜜のおかげで痛みはまったくなかったが、怒張した雄茎に胎内をいっぱいに塞がれる感覚に、ロウィーナは声もなく涙した。
 アーサーが熱い吐息をつき、動きだした。激しく腰を打ちつけられ、ロウィーナはシーツに爪をたて、喘いだ。
「ひぁッ、あッ、あン、ンン……、っあ、ふ」
 素肌のぶつかりあう淫靡な音が寝室に響く。四つん這いで尻だけを高く上げ、後ろから犯されていることを意識すると、性感はますます尖鋭になった。
 顔が見えないことが不安だったが、荒く単調な息づかいに彼の興奮を感じた。凶猛な楔を容赦なく突き立てられ、深く抉られると、身体の中心から放射状に快楽が広がってゆく。揺さぶられるたびに涙がこぼれてシーツに散った。
 気持ちよすぎて涙が出るなんて、思わなかった……。
 ロウィーナは泣きながら絶頂に達し、顎を反らしてひときわ高く腰を突き出した。誘われるようにアーサーが吐精する。
 熱い飛沫が胎内に広がるのを感じ、ロウィーナは恍惚と溜息をついた。
 横たわったアーサーがロウィーナを抱き寄せる。汗ばんだ額にくちづけ、彼は囁いた。
「……そして猟師と雌狼は、末永く幸せに暮らしましたとさ」
 ロウィーナは陶酔の余韻に浸ったままとろりと笑った。
「おかしな結末。そんなのありえる?」
「何でもありさ。これは僕らの物語だから」
「そうね……」
 ロウィーナは呟き、彼の胸に頬をすり寄せた。
「わたしたち、幸せな物語をたくさん紡いでいきましょう……」
 優しい唇が目許に落ちるの感じながら、ロウィーナは満たされた眠りに就いた。
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