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『平安あやかし恋絵巻』削除エピソードその1 月影&榧 鬼の本懐の巻

『平安あやかし恋絵巻 麗しの東宮さまと秘密の夜』は大きなノベルス版なので、
ふつうの文庫本より1ページあたりの文字数が多いのですが、
それでも今回入りきらなくてだいぶ削りました。
独立して読めそうなところを上げておきますので興味あるのある方はどうぞ!

まずは月影と榧のふたりだけで会話するエピソードです。
単行本では第三章のラストからの続きです。

◇ ◇ ◇

「若君。どうしてお認めになりませんの?」
 ようやく真帆が寝入った頃。どうやって上がったのか、寝殿の高い屋根の上にすっくと立つ榧《かや》の姿があった。その傍らでは月影がが思案投首といった態で座り込んでいる。
 懐から出した横笛を、吹くでもなくしまうでもなくもてあそぶばかりだ。
「……ん? 何か言ったか、榧」
 やっと反応した月影に、榧ははぁあと溜息をついた。
「貴船で真帆さまと遊んだのは自分だと、何故お認めにならないのですか。もったいつけておいでですの?」
「ずけずけ言うなぁ、榧は」
「わたくしは若君の乳母でございますよ。実際にお乳をお飲ませしたのは人間の乳母ですけれども、わたくしにとって若君は我が子同然。いえ、子はおりませんので、弟と申し上げたほうがよろしいでしょうか。ともかく、恐れ多いことながら若君のことはよく存じあげているつもりでおります」
「別に恐れ入らなくていいさ。俺にとって榧は確かに姉のような存在だ」
 率直な言葉に榧の瞳がきらきらと輝いた。
「若君。真帆さまのことはまだわずかに拝見したばかりでございますが、はきはきとして、たいへんさっぱりしたご気性の姫君とお見受けいたしました。ただ美しいだけでなよなよと気骨のない姫君などは頭からバリバリ喰ってやりたくなりますわ」
「かーや、角が伸びてるぞ」
 屋根に落ちた榧の影から立派な牛のような二本角が生えているのがくっきりとわかる。だが、実際の榧の頭にはそのようなものはない。
 榧はさらに声に力を込めた。
「なんと言いますか、真帆さまには声援を送りたくなりますわね。聞いた話ではご自分で鍬を振るって大根《おおね》をお作りになり、販女《ひさぎめ》に身をやつして売り歩かれたとか……。帝に連なる高貴な血筋の姫君にもかかわらず、まぁ、まぁ、なんと逞しいのでしょう! そういう自助の気概あふるる人間には鬼としては是非とも力を貸したくなりますわね! いえ、そうすることこそ鬼の本懐というものです! 己が身の不幸を嘆くばかりの無能な姫など大根に変えてしまえばよいのですわ。そうすればいくらか役に立つというものです。大根は漬け物にしても炊いて味噌を添えても美味しゅうございますし」
 息巻く榧に、月影は呆れたように嘆息する。
「確かに真帆はいい子だよ。だから迷ってるんじゃないか」
「何を迷うのです? 真帆さまは若君のことを慕っておいでですわよ?」
「真帆が好意を持ってくれているのは、『怪しの君』だ。貴船で出会った、鬼の子だよ。今の俺はあの頃とは違う。あの頃はまだ人間に近かったが……」
 ふっと黙り込み、月影は横笛をコツリと額に当てた。
「……自分の本性がどちらにあるのか、今ではわかっているからな」
「若君……」
「ともかく、榧も真帆を気に入ってくれたのなら心を込めてお仕えしてくれ。幸せになってほしい姫なんだ」
「もちろんでございます」
「では戻れ。仕える者どもがうかうか本性を現したりせぬようよく見張れよ。真帆はともかく、側仕えの女房ふたりはただの人間で、善良だが臆病だからな。怖がらせることはしないと約束した」
「かしこまりました」
 深々と一礼した榧の姿が、ふっと掻き消える。
 ひとり残った月影は、笛を唇に当て、音を忍ばせて静かに吹き鳴らした。その音色は御帳台のなかで眠る真帆の夢を優しく揺らし、懐かしい鞦韆《ブランコ》の夢に眠りながら真帆は微笑んだのだった。

◇ ◇ ◇

というわけで、なんと榧は月影の乳母だったんですねぇ。
榧が本音を洩らしているのはここだけなのですが、真帆をどう思っているのかわかるかと思います。
お気に召しましたら拍手していただけますと嬉しいです。
ありがとうございました。

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iSaya

Author:iSaya
鷹守諫也でライト文芸、上主沙夜で乙女系ノベルを書いてます。

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