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『平安あやかし恋絵巻』削除エピソードその2 真帆&狭霧 貴族の暮らしって面倒だわ、の巻

以下は単行本の第五章の冒頭にあったエピソードです。
ここも脱線気味なので削除しました。
ひまをもてあました真帆が狭霧に物語を朗読させる、姫君らしい生活(笑)のひとこまです。


◇ ◇ ◇

 異母兄に裳着をねだって早半月。
 なんの音沙汰もないまま、真帆は暇を持て余していた。
「ああ、暇だわ~。こっそり大根売りにでも出かけようかしら」
「とんでもございませんっ」
 側に控えていた狭霧が眉を吊り上げる。
「やぁね、冗談よ。わたしだってもう軽々しく出歩けないことくらいわかってます」
「そんなに退屈でしたら物詣《ものもうで》にでもお出かけになっては」
「どこに行くにしてもこれからすぐってわけにもいかないでしょ。占いで吉日や方角を選ばないといけないし。ああ、貴族の暮らしって面倒だわ」
「では双六などいかがですか」
「わたし、蹴鞠がしてみたい」
「あれは男君の遊びでございますよ。ご覧になりたいのなら兄君さまにお願いしてみては。これぞという公達を集めて催してくださいますわ」
「それじゃお見合いみたいじゃないの。わたしは見物ではなく自分でやりたいの」
「お見合いけっこうではございませんか。真帆さまもようやく裳着をなさるのですから。裳着が済めば、次は当然ご結婚ですわ」
「本当に裳着をやってもらえるのかしら。お義姉さまがいらして以来、なんの音沙汰もないけど。……ねぇ、狭霧。わたし、お義姉さまの前で何かやらかしたかしら?」
「そんなことございませんわ。姫君らしいおふるまいでした。上出来だと空木さんも喜んでおられましたよ」
「ならいいけど。──廂に出て庭が見たいわ。狭霧、何か物語でも読んでくれない?」
「かしこまりました」
 さっそく寝殿の階隠《はしがくし》近くの南廂に几帳を立て、座をしつらえる。狭霧の読み上げる伊勢物語を聞き流しながら、真帆は広大な庭をぼんやりと眺めた。
(月影も最近さっぱり現れないけど、どうしたのかしら)
 そうだわ、今度月影が来たら蹴鞠を教えてもらおう。だめとは言われないはず。
(月影は蹴鞠ができるのかしら?)
 ふと考え、できるに決まっているわと思いなおす。鬼の國での彼の身分は、けっして低くはないはずだ。いつも綺麗でおしゃれな水干を身につけているし、髪もつやつや。それに笛がたいそう上手い。
 月影なら、毬を蹴りながら清水寺の舞台の欄干をひょいひょい渡るくらい、難なくやってのけそうだ。
(ついでに笛まで吹いちゃいそう)
 想像すると楽しくなって真帆はにっこりした。ちょうどそのとき狭霧は伊勢物語の芥川の段を読んでいた。蔵のなかに隠されていた女が鬼に食われていなくなってしまったところをドキドキしながら読み上げつつ、ちらと真帆を伺うと、機嫌よさそうにニコニコしていたのでびっくりした。
「姫さま、鬼に食われるのが怖くはないのですか?」
「は!?」
 全然聞いてなかった真帆はあたふたした。
「あ、ああ、芥川のところね! あれは鬼に食われたんじゃなくて、女の親族が取り戻しに来て連れ帰っただけじゃない」
「そうですけど……」
「男ってばかよねぇって笑ってたのよ」
「姫さま、それは情緒に欠けるというものですわ」
 と、まじめな顔で注意される。思わぬ説教を食らってしまった。
 朗読に戻った狭霧を横目で見て、真帆はホッと胸をなで下ろした。
(ああ、びっくりした)
 ちょうど鬼である月影のことを考えていたところにいきなり『鬼』と言われ、自分が何か口に出していたのかとギョッとしてしまった。
(もうっ、月影ってばわたしに求婚まがいのことを言っておいて、なんなのよ!)
 誰のために裳着を決意したと思ってるのかしら。
 人の口まで舐めておいて──。
 思い出して真帆は赤くなった。
(あれは接吻だと思っていい……のよね?)
 まさか、犬がじゃれついたようなものではないだろうが。
 あるいは実際に食べる前に味見したとか。
(はっ。それだったらどうしよう!?)
 鬼はや一口に喰ひてけり。
 今し方読まれた物語の一節を思い出して真帆は思わず「あなや(あれぇ)」と叫んでしまった。
「姫さま!? いかがなさいました」
 狭霧が仰天して本を放り出す。
「な、なんでもない。ちょっと二条の后の気持ちになってみたのよ」
「お顔が赤うございます! 日に当たりすぎたのですわ!」
「ここ屋根あるから──」
「さぁさぁ、お早く中へお入りくださいませ」
 有無を言わさず御簾の中に押し込まれる。騒ぎを聞きつけて空木が駆けつけてきた。薄縁を敷いて寝かされると濡らした手拭いを額やら頬やらに押し当てられる。近頃ずっと屋内にいてやっと日焼けの色が抜けてきたところだから、裳着を前にして狭霧も空木も神経質になっているのだ。
(ちゃんと素敵な公達になって訪ねてこなかったら承知しないんだからねっ)
 仕方なくおとなしく世話されながら、思い浮かんだ月影の涼しげな美貌に向かって真帆は心の雄叫びを上げたのだった。

◇ ◇ ◇

結局、どうにも姫君らしくならない真帆なのでした(笑)。
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iSaya

Author:iSaya
鷹守諫也でライト文芸、上主沙夜で乙女系ノベルを書いてます。

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